1945年8月6日、広島に原子爆弾「リトル・ボーイ」が投下されました。原爆というと、とてつもない量のウランが核分裂して、あれほど大きな爆発が起きたように思ってしまいます。
ところが調べてみると、ちょっと驚く数字が出てきます。広島原爆に使われたウランは推定約64kg。そのうち実際に核分裂したのは、わずか約1kgだったと推定されています。
64kgのうち、たった1kg。
では、なぜそれだけであれほど巨大なエネルギーが生まれたのでしょうか。そして、核分裂しなかった残りのウランはどうなったのでしょうか。
広島原爆には約64kgのウランが使われていた
広島に投下された原子爆弾「リトル・ボーイ」には、核分裂物質としてウラン235が使われました。
放射線影響研究所によると、広島原爆に使われたウランの総量は推定約64kgです。
原爆そのものの重量は約4トンだったとされていますから、その中に約64kgのウランが搭載されていたことになります。
実際に核分裂したのは約1kg
ここからが驚くところです。
約64kgのウランが搭載されていましたが、そのすべてが核分裂したわけではありません。
実際に核分裂したと推定されているのは約1.56%。重量にすると約1kgです。
つまり、逆に考えれば98%以上のウランは核分裂しなかったことになります。
これだけを見ると、「そんなに少なかったの?」と思ってしまいます。
なぜ約1kgしか核分裂しなかったのか
原子爆弾は、ウランを燃料のように少しずつ燃やしていくものではありません。
ウラン235の原子核に中性子が当たると核分裂が起こり、そこからさらに中性子が飛び出します。その中性子が別のウラン235に当たり、また核分裂する。
これが「核分裂連鎖反応」です。
広島市の説明では、広島原爆はウラン235を臨界量より少ない二つの塊に分けておき、爆薬によって一つに合体させる仕組みでした。
一つになって臨界量を超えると、100万分の1秒という極めて短い時間に核分裂連鎖反応が起こります。
ところが、核分裂によってエネルギーが発生すると、爆弾そのものが急激に膨張し、吹き飛ばされてしまいます。
すると、核分裂連鎖反応を続けるための状態を保てなくなります。
つまり、64kg全部が順番に核分裂するまで待ってくれるわけではありません。
核分裂が始まる→ものすごいエネルギーが発生する→爆弾自体が吹き飛ぶ→連鎖反応が続かなくなる。
その結果、実際に核分裂したのは約1kgだったということになります。
たった約1kgでどれくらいのエネルギーだったのか
「約1kgしか核分裂していない」と聞くと、それほど大したことがないように感じてしまうかもしれません。
しかし、ここが原子爆弾の恐ろしいところです。
広島市によると、広島原爆の爆発エネルギーはTNT火薬に換算して約16キロトンだったと考えられています。
16キロトンということは、TNT火薬約1万6000トン分です。
わずか約1kgのウランの核分裂を中心とした反応によって、それほど巨大なエネルギーが瞬間的に放出されたことになります。
では、残りの約63kgのウランはどこへ行った?
ここで、もう一つ疑問が出てきます。
約64kgのうち約1kgしか核分裂していないのなら、残りのウランはどこへ行ったのでしょうか。
放射線影響研究所によると、核分裂しなかったウランなどの多くは、爆発によって生じた巨大な火球とともに上空へ運ばれ、広範囲に拡散したと考えられています。
その一部は、すすなどと一緒に「黒い雨」となって地上に降りました。
原爆の被害は、爆風や熱線だけではありません。
爆発時の放射線に加え、核分裂によって生じた放射性物質や核分裂しなかったウランなどによる放射性降下物も発生しました。
「核分裂したのは1.56%」=原爆が失敗だったわけではない
以前のこの記事では、「広島の原爆は実は失敗だった」という表現を使っていました。
確かに、約64kgのウランを搭載して、そのうち核分裂したのが約1kgと聞けば、「ほとんど使えていないじゃないか」と感じます。
しかし、これは「原爆が失敗した」という意味ではありません。
核分裂の効率が非常に低かったという話と、兵器として爆発しなかったという話は別です。
実際には約1kg程度の核分裂でも、広島原爆はTNT火薬約1万6000トン分に相当するエネルギーを放出しました。
ですから、「失敗した原爆」という表現よりも、「約64kgのウランのうち、核分裂したのは約1kgだった」と考えた方が正確です。
もし64kgすべてが核分裂したら64倍になる?
ここで私が最初に考えたのが、「1kgでこれだけなら、64kg全部が核分裂したら64倍になるのでは?」という疑問です。
ただし、爆発のエネルギーが64倍になったからといって、被害を受ける半径まで単純に64倍になるわけではありません。
爆風、熱線、放射線はそれぞれ広がり方が違いますし、爆発高度や地形、建物などによっても被害は変わります。
そのため「全部核分裂したら○○kmまで被害が出る」という単純な掛け算では求められません。
むしろ重要なのは、約64kgのウランのうち、ごく一部が核分裂しただけでも、あれほど巨大なエネルギーが発生したという事実だと思います。
なぜ原爆は普通の爆弾とこれほど違うのか
普通の爆弾は、火薬の化学反応によってエネルギーを取り出します。
一方、原子爆弾は原子核そのものが分裂する際に生じるエネルギーを利用します。
そのため、同じ重量の物質から取り出せるエネルギーの規模がまったく違います。
約1kgしか核分裂しなかったのに、TNT火薬約1万6000トン分。
数字だけを並べても、なかなか実感できないほどの差です。
まとめ|64kgではなく約1kgだったことに驚く
広島原爆について調べていて、私が一番驚いたのは爆弾そのものの大きさではありません。
約64kgのウランを搭載していたにもかかわらず、実際に核分裂したと推定されているのは約1.56%、約1kgだったということです。
そして、その約1kgの核分裂を中心とした反応によって、TNT火薬約1万6000トン分に相当するエネルギーが発生しました。
「原爆はものすごい爆弾だった」ということは誰でも知っています。
しかし、「実際に核分裂したウランは約1kgだった」と知ると、原子核に含まれているエネルギーがどれほど大きいのか、少し違った角度から原爆を見ることができます。
もちろん、そのエネルギーによって実際に多くの人が亡くなり、その後も長期間にわたって被害が続いたことを忘れることはできません。
数字を知れば知るほど、原子爆弾という兵器の異常なほど大きなエネルギーを改めて感じます。
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E=mc2のからくり エネルギーと質量はなぜ「等しい」のか 山田克哉著より


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